自分や世界は刻々と更新されていくものです。だからこそ、学んだ既知に居つかずそれを手放し、未知に対してうぶな心でワクワクしながら出会っていきましょう。
『ブッダが教える愉快な生き方』(藤田一照/日本の僧侶)
仕事に慣れてくると、何も考えなくても体が動くようになる。新しい知識を覚えようとか、もっと効率的なやり方を探そうとか、意欲的に働く気持ちが薄れていくことも。
でも、一度手に入れた経験や知識を手放して、新たな気持ちで物事を見てみると発見があります。好奇心をもって、目の前に広がる世界を見ると、愉快な生き方ができるのです。
おぼろ月
この書籍は、原因がわからない心のモヤモヤを抱えている人に読んでもらいたい本です。読み終わったあと、スッキリ晴れやかな気持ちになれますよ。
contents
赤ちゃんのように触れてよく観る
生きていると問題や困難に出会って、思い通りにならないことがあります。ブッダは、この悩みに対して「闘う」でもなく「逃げる」でもない、第三の道があると教えてくれています。
問題に対して「触れてよく観る」という方法です。
本書の例として、赤ちゃんが泣いているときの対応があげられています。叱って無理に泣き止ませるのではなく、見ないふりをするでもなく、まずは抱き上げて何が起きているのかよく見ようとします。
「おしめが濡れている?」「熱はない?」「眠い?」「お腹がすいている?」といったように。(とはいえ、お母さんも疲れていると、「闘う」&「逃げる」を選択することもありますが……私です・泣)
目の前の出来事にすぐ反応するのではなく、じっくり悩みや苦しみを観察して受け入れることが大事なのですね。その上で「逃げる」(自分を守る)という選択肢はあると思います。
おぼろ月
受けたもーう
この本の中で興味深かったのは、著者の修行のお話です。二泊三日で3つの山に拝登するのですが、私語は一切禁止されています。ただ、「受けたもう」という言葉(返事)だけは発することを許されていました。
先達(指導者)が指示をしたとき、修行者たちは「受けたもーう」と応じます。疲れていても「起床!」と言われれば「受けたもーう」、休憩していても「出立!」と言われれば足が痛くても「受けたもーう」と立ち上がって歩く、という具合です。
その様子を想像すると、何事にも抵抗することなく、「受けたもう」とやるべきことを淡々とする姿勢に気持ちが引き締まります。
著者は「受けたもーう」ばかり言っていると、次のように感じるようになったと語ります。
とてもキツイ修行でも、「受けたもう」の精神でいれば乗り切ることができる。これは勉強や仕事に対しても同じですね。目の前のやるべきことに「受けたもう」という素直な姿勢。その上で自発的に動くというのが大事だと感じました。
おぼろ月
苦しみ=痛み×抵抗
わたしが本書の中でメモした面白い方式があります。「苦しみ=痛み×抵抗」です。一般的には「苦しみ=痛み」と思われているのですが、ここに「抵抗」が加わると苦しみが大きくなるというのです。
身体的な痛みがあれば「痛い」という感覚だけですが、そこに「あ、嫌だなぁ」という感情が加わると痛みが倍増する。すごく納得しました。
つい最近では、椎間板ヘルニアになって「腰が痛い」と感じました。そこに「痛いのに仕事に行くの嫌だな」「ヨガができないの、辛いな」と心の抵抗がありました。むしろ身体の痛みより「心の抵抗」のほうが大きかったのではないか。
「痛くて働けないのなら休めばいい」という簡単な答えも、心の苦しみにフォーカスされると導き出せなくなります(2日間は休みましたが、あとは痛み止めを飲みながら仕事をすることに)。
なかなか抵抗せずに「受け入れる」というのは難しいですが、抵抗が苦しみを増やしているという事実に気づくことが大事ですね。
その式とペアになっている「幸せの式」もあるそうです。
「幸せ=快感÷執着」
快感に対する執着の度合いが上がると、幸せの度合いが減ってしまいます。何かを手に入れても、もっと欲しい・独り占めしようと考えると、幸せな感情は小さくなって消えていくのです。これにも納得!!
おぼろ月
とても素敵な本だったので、興味のある方は手に取ってみてください。この著者が書いた「座禅」に関する本も読みやすくてオススメです。
『ブッダが教える愉快な生き方』(藤田一照・ふじたいっしょう)
◆著者について
1954年、愛知県生まれ。東京大学教育学部教育心理学科を経て、大学院で発達心理学を専攻。28歳で博士課程を中退し禅道場に入山、得度。33歳で渡米。以来17年半にわたりアメリカで座禅を指導する。スターバックス、フェイスブックなど、アメリカの大手企業でも座禅を指導し、曹洞宗国際センター所長を務める(2010年~18年)。《本書より引用》