適度な言い訳は人生をおいしくしてくれる味の素みたいなものだ。つまり言い訳(自己合理化)とは、悩み多き現代社会で、心折れずに生かしてくれる最後の砦なのだ。
『今日も言い訳しながら生きてます』(ハ・ワン/イラストレーター)
イタタタタタ……。朝起きると、鈍い痛みが腰とお尻あたりに走って立ち上がれない。そうだ、昨日の仕事中、重いものを運ぶ動作のたびにジーンとした痛みがあったんだっけ。
今日の仕事、どうする? 休む?
人数が足りないし、やっぱり無理して行く?
すごい葛藤が頭の中をグルグルとまわっている。とりあえず、家族のお弁当(4つ)作るのは無理だからあきらめて……。
当日欠勤をすることは滅多にないので、「休みます」の電話に勇気がいる。最近、新人さんが辞めたところで、シフトにも余裕がないし、どうしよう。
枕元にあったのは、この『今日も言い訳しながら生きてます』の本。脱力系のイラストが「もう、休んじゃえよ」と言っているようにみえた。
背中を押され、携帯電話を手に取る。震える声で申し訳なさそうに、「すみません、今日、休ませてください」と。
おぼろ月
この本は、つい頑張りすぎてしまう人たちに読んでほしいです。わたしのココロに響いたエッセイを、いくつか紹介します。
あやうく一生懸命生きるところだった
この本の著者は、韓国のイラストレーター(今はエッセイストでもある)ハ・ワンさん。『あやうく一生懸命生きるところだった』が日韓40万部突破のベストセラーになりました。
40歳を目前に頑張ることをやめた著者は、会社をやめて自分の好きなことだけをして生きる道を選びます。これは「頑張らなくても生きていけるのでは?」という人生の実験でもありました。
彼の2冊のエッセイ本を読む限り、頑張らなくても生きていけるようです。何とかなる、ケセラセラ♪
もちろん、夢に向かって必死に頑張る人生もあります。戦って、傷ついて、また這い上がってという一生も、見ている分には映画のようで感動的。
でも、何のために頑張っているのか、わたしはこれで幸せなのか、立ち止まってみる時間も必要ですね。自分だけじゃなく、ファイティングポーズで忙しくしているわたしの周りに、笑顔の人がいるのかな?
おぼろ月
一部の人は好きなことをしてダラダラしている相手に対して、肯定的な気持ちは湧かないようです。自分はこんなに頑張っているのに、アイツは何だ? ヘラヘラしやがって! 楽しく遊んでいるなんてけしからん、と。
ハ・ワンさんの一作目のエッセイは共感を呼びましたが、否定的なレビューもあったそうです。人を否定する言葉には破壊力があり、とても傷ついてしまった彼。でも、開き直って、苦境にまみれて生きるべきと信じている人たちに、こんな言葉を贈っています。
誰にも認められなくて結構です
彼のもとに、子どものころに付き合いのあった人から電話が掛かってきました。「結婚はしたのか?」「どこの会社だ?」などの質問に答えているうち、相手のがっかりした様子が伝わってきたといいます。
成功すると思っていた相手の人生が、実際にはうまくいっていなくて残念に思われたのです。
でも、彼は今、楽しく生きています。周りから見て、成功者と思われなくても、ダメな人生を歩んでいると感じられても。
戦い続けるとキリがないだろ?
もうひとつ、彼のエッセイでココロに刺さった章があります。
彼が大学生のとき、ディベート(討論)の授業がありました。ある日のお題は「難民問題」。「もし韓国に難民が押し寄せたらどうするか?」というテーマで、賛成・反対に分かれて討論をするというものでした。
彼は反対の側について相手を説得するのですが、ディベートが白熱して険悪な雰囲気になったそうです。自分がいかに正しいかを証明するために、最後は相手に「現実的な問題に目を背けたまま、いい人のふりをしようとする理想主義者ですね」という非難を浴びせてしまったとか。
そして、家に帰ってから「なんのために戦ったのか?」と気持ちの悪さが残っていたのだそう。難民の受け入れを拒否されて、ボートの上で息絶えた人の写真を見て胸を痛めたこともあったのに、どうして必死に抗議をしたのだろう。
『ただ言い負かしたいだけだったのだろうか?』
その経験がきっかけで、彼は相手の考えに耳を傾けられるようになりました。
好きなことをして生きていきたい
さて、わたくし事に戻りますが、「明日も仕事を休むように」と職場から連絡がありました。ちょっとした時間ができて嬉しく感じる反面、ちゃんと病院に行って治さなければ、と何とか通院。診断結果は「椎間板ヘルニア」らしいです。
体力勝負の仕事柄、肩や腰の痛みに耐えるパートさんが多い。「わたしヘルニア持ちなのよね」という人、手術をした人もいます。ついに、わたしも仲間入り……。
あぁ、家にいながらにして収入を得ることはできないものか。真剣に悩むときがきました。ハ・ワンさんのように、自由に、好きなことをして生きたいけれど。今月の子供の塾代はだれが払ってくれるのか。うむむ……。
おぼろ月
思いきり家でリラックスできる今はどれだけ幸せかわからない。それくらいで幸せを感じるなんて、なんてお手軽なやつなんだろうか。
まあ、そんなことはどうでもいい。
僕は今日もずっと家にいるつもりだ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
一作目『あやうく一生懸命生きるところだった』もオススメです。
『今日も言い訳しながら生きてます』(ハ・ワン=文・イラスト/岡崎暢子=訳)
◆著者について
本業はイラストレーター。イラストだけでは食べていけないとエッセイを書き始める。さまざまな本にイラストを提供しながら、エッセイ『あやうく一生懸命生きるところだった』を書いた。イラストよりエッセイのほうが売れて若干複雑だが、それでも生きていけているからありがたい。かくなる上は、書き続けるのみ。怖いもの知らずで2冊目を上梓してしまう。(本書より)