『マンション管理員オロオロ日記』(著・南野苑生)より
世の中には自分の正義を通すために、相手を攻撃する人がいます。
著者のように、多くの住民が生活するマンションで働いていると、さまざまな人間の性質や生き様に触れることになります。
毎日のようにクレームを言う人、注意すると逆ギレする人、住民同士のいざこざ、夜逃げする人、自殺志願者などなど……。最初から好意的な人もいるけれど、そうでない人たちとも折り合いをつけていく必要があって大変です。
本書はマンション管理員の日記を綴ったもので、何気ない風景の中にいる働く人・生活する者の存在を感じられました。
わたしが気に入ったエピソードを紹介していきます。
興味が湧いた方は、ぜひ手に取って読んでみてください。
そしてマンション管理員になる
著者は広告代理店に勤めていたのですが、バブルの影響で会社の業績が落ち、阪神大震災の影響も受けて仕事がなくなっていきました。
家計がひっ迫していく中、奥さんに連れられてきた児童公園。そこには一人のホームレスの老人が住んでいました。
奥さんは、優しい言葉をかけながら、老人に温かい肉じゃがや毛布などを手渡しました。夫婦を見送ってくれたホームレスの老人を見て……
「よかったな。あんなに喜んでくれて」
能天気に感想を漏らす私に、家内は言った。
「明日はわが身よ」
その日以来、私たちは凍てつく寒い深夜になると、四条通りの歩道の端っこでダンボールにくるまっているホームレスたちに肉じゃがやおにぎり、ペットボトルに入ったお茶、かす汁などを配ってまわるようになった。
『マンション管理員オロオロ日記』(著・南野苑生)より
その後、住み込みでマンション管理員になろう、という奥さんのひと言で、著者は13年もの管理員生活を送ることになります。
自分たちの生活が苦しいとき、奥さんが起こした優しい行動。「明日はわが身」といった追い込まれた状況の中で、彼女が提案した次の人生にハッとさせられます。
人生何が起きるかわからない、どんなきっかけで新しい世界が展開するのかも。
わがまま人間が目をつけたのは
住民の不満や要求に耳を傾けるのも、マンション管理員の大切な仕事のひとつ。
ある住民が文句をつけたのは、デイケア(日帰りの福祉サービス)の送迎車が出入りの邪魔になっている、というものでした。
デイケアを利用しているのは、80代の半身不随のおばあちゃん。スタッフとともに部屋から送迎車まで車いすで移動して乗り込んでいたのです。
「いつもすいません」と頭を下げる、おばあちゃん。テキパキと動きながらも気遣いのできるスタッフのみなさん。管理員夫婦は「心温まる朝の風物詩」と、優しい目で見守っていました。
でも、ある住民のクレームにより、送迎車を敷地内に止められないことに……。結局、デイケアの送迎車は、上り坂になっている敷地外で待機するようお願いしたのです。
あちらを立てればこちちが立たず……。
たった数分間、車の出し入れができないというだけで、不自由な思いをしている高齢者や福祉スタッフの行動に文句をいう人がいるのですね。
世知辛い世の中だと感じるとともに、心の余裕をもって、相手の立場に立てる人でありたいと感じました。
一生忘れられない光景
近畿地方を襲った台風21号で、著者の管理するマンションも被害が起きました。
住民の報告によると、屋上にある柵が落ちかかっていて危険だという。マンション14階、強風が吹き荒れる中で命がけの作業をすることに。
でも協力してくれる住民が次々と現れて、みんなで危機を乗り切ったというエピソードがありました。
マンションの住民たちの協力がなかったら、柵が落下して大惨事になっていたかもしれません。雨風の中、みんなで力を合わせて、危機を乗り越えようとする姿に感動しました。
このように書籍には、クレーマーに対応する苦労だけでなく、心温まるヒューマンドラマも描かれています。
世の中にはいろんな仕事があって、立場があって、人との絆があって、身近なところにも感動が隠れているのだと感じました。面白いですね。
この他にも「交通誘導員ヨレヨレ日記」「メーター検針員テゲテゲ日記」など、街で見かける“あの仕事”を教えてくれる本があります。これから読んでいきたいです♪
余談ですが、わたしがこの本を読もうと思ったのは、2020年「THE W」で優勝した女性芸人・吉住さんが、芸人だけで食べていけず「マンション管理人の仕事をしている」と語ったのがキッカケです。彼女は仕事が楽しい!といっていたので、どんな業務なんだろうと単純に興味をもったのでした。
マンション管理員の仕事に興味をもつ方だけでなく、肩の力を抜いて、クスッと笑ったり泣いたりしたい方にもオススメの本です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
『マンション管理員オロオロ日記』(著・南野苑生)